編集部古見です。
突然ですが、朝はお米派ですか?パン派ですか?
私は”お米派”です!お米をおかずにお米を食べるほどのお米好き。

先日、お米を食べない家庭が増えているというニュースを目にして、衝撃を受けました。

お米といえば、家族団らんの象徴。
おかわりという声が食卓に響いて、お母さんがお茶碗によそったご飯を口一杯に頬張る。
そんな光景がなくなってしまうのだろうか・・・。

私たち編集部は、お米を好きになってもらいたい!素材の味に興味をもってほしい!と一念発起。

今回は「究極の銀シャリ」を生み出した江戸時代から代々続く京都の老舗米問屋 株式会社八代目儀兵衛の橋本隆志さんにインタビューをさせていただきました。

株式会社八代目儀兵衛  代表取締役社長 橋本隆志さん(右上)

五ツ星お米マイスター。
お米マイスターとはお米の「説明能力」「ブレンド技術」「美味しいご飯の炊き方」等お米に関する幅広い専門知識を持った人にのみ与えられる資格のことで、お米のプロ中のプロと言っても過言ではない。

「美味しいお米を届けたい」230年以上変わらない京都の老舗米屋の志

-儀兵衛の始まり

始まりは200年以上前の江戸時代にまで遡る。
1787年寛政の改革が始まった江戸時代の後期に初代となる橋本儀兵衛が庄屋業として創業、
大正14年1925年に米屋として本格的なスタートを切った。
現在は8代目となる橋本隆志さんが2006年に八代目儀兵衛を設立し、お米の魅力を広め続けている。

京都の老舗米問屋と聞くと、1つのことを守り続けるイメージがあるが、八代目儀兵衛はそんな老舗のイメージを微塵も感じさせない。
この米問屋には、橋本隆志さんの志が色濃くうつしだされていた。

-老舗米問屋としての想い

「本来のお米屋さんの仕事はお米を販売するだけ。それでお米の味を理解してくれと言っても消費者には伝わりません。お米の魅力を伝えるための選択肢を社会に創ること。それが八代目儀兵衛の成すべきことだと考えています。」

橋本隆志さんは続ける
「もちろん先代の築き上げたものをリスペクトした上で、時代に合わせて形を変える必要があります。販売の仕方や経営の在り方など変えるべき部分は様々です。変えないといけないこと、変えてはいけないことが多すぎると雁字搦めになる。私が変えないのは、”美味しいお米を届ける”という思いだけ。それだけです。」

様々なサービスも美味しいお米を届けるための方法でしかない。
八代目儀兵衛のお米への想いは230年以上変わっていない。

橋本さんに、お米についての質問をぶつけてみた。

産地や銘柄に縛られない本当に美味しいお米

橋本さんの考える美味しいお米とは?

美味しいお米は”甘い”!これは間違いない。

お米を噛めば嚙むほど甘味が出てくるが、橋本さんの考える美味しいお米は“口に入れると溶ける”お米だ。
さらに、橋本さんは続ける。

「ただし甘さという表現に語弊があると困るが、
砂糖のような甘みではなく、魚やお肉特有の素材に甘さがあるように、お米特有の自然な甘みがあります。人間は生まれてから一番初めに甘さを感じると言われていますので、僕らは赤ちゃんが食べて美味しいと感じるお米を作るという考えを大切にしています。」

「大人になると味覚がどんどん衰退していく。
ブランド名や言葉だけでおいしそうと思うじゃないですか、これは言葉がおいしさを助長しているだけで味覚を理解しているかというとしていないんですよね。言葉で満足、精神的に満足をしているんです。」

-言葉や精神的に満足しているって?

「テロワールという言葉をご存知ですか。ワインでよく使われる言葉ですが、産地で味が決まるということです。その考えはお米でも共通して言えます。」

「産地やブランドでおいしいものがある、それは事実です。ですが、作っている生産者さんやその年の天気などでも味は大きく変化します。全てが普遍的に美味しいかというとそうではありません。また一方で、とても美味しいお米を作っている生産者さんが評価されていない現状もあります。だから私たちは日本全国のお米をしっかり目利きしておしいお米をピックアップしてお届けする。産地に縛られない本能的な美味しさに訴えかけるようなお米作りにこだわり、多くの方が抱いている○○産だから美味しいという価値観を変えていくのが私たちの役割なんです。」
※テロワール・・・ラテン語で領地を意味するテリトリウムが語源。

確かに”○○産”とか”ササニシキ”、“コシヒカリ”などのブランド名を目にすると、このお米は美味しいに違いないと思ってしまう。
冒頭でお米好きだといっていた私も、品種やブランド名を見るだけで「おいしそう」を感じ精神的に満足をしていたことに気が付いた。

さらに、味覚について続けて語ってくれた。

-本能的に感じるおいしさをお米で表現し、言葉が通じない人たちにも味覚を伝えたい

「味覚の話をすると、文化によって異なってくる。農林水産省から指名があり、中国で日本米のおいしさを伝える伝道師をしているんです。中国人の味覚、日本人の味覚はお米に対して違いがあります。中国人は“香り”で美味しいを感じる、日本人は“食感”で美味しいを感じる。中国の方は冷たいものは食べようとしない文化です。温かいものが幸せと思っている文化の根底があります。」

中国でおにぎりがあまり食べられないのは、冷たいものを食べない文化が根底にあるからと続けて語ってくれた。

「日本人が好きな食感は、ふわっとしたもの、口の中でとろけるもの。このようなお米をおいしいお米と判断しています。おいしいお米は噛まなくても口の中で溶けます。おいしいお米に近いものを知って頂いたり、これがおいしいお米だよとしっかり伝えていくことを私たちは役割としています。」

日本人がトロが好きなのも、ふわっとして口の中でとろけるから。
本能的においしいと感じる食べ物は、ふわっとして口の中でとろけることに気が付いた。

白米は味がしないという若者が増加

今、白米の味がしないという若者が増えているという。
橋本さんはこのような世の中に警鐘を鳴らす。

「私たちお米屋さんにとってはとても悲しいことです。お米に味がしないと感じる理由は様々ですが、本当に美味しいお米を食べていないからだと思います。スーパーで販売しているお米との違いは、精米です。精米の工程で栄養分の高い外側の果皮部分が全て剥がされて真っ白い状態になっています。お米は白いものが安全安心という認識があるため、過度に精米されてしまうんです。見た目は白くなりますが、無機質な味になってしまいます。たったそれだけの工程でお米の味は変わるんです。」

この状況が続けば、ますます家庭の食生活で美味しいお米を食べる機会が減り、お米の味が分からない子どもが増えていくことを危惧している。

「“お米=残してはいけないもの”という感覚で、おいしいと感じる機会がなくなってきている。もちろんお米を残してはいけない、大事にしなさいの考え方は大事。」

橋本さんの言葉を聞きハッとした。
私がお米の美味しさに気が付いたきっかけは母からの“おいしいお米だよ”“おいしいね!”ただその一言だけだった。
それまでは素材の味を知ろうともせず残さずに食べる。出されたから食べる。そう考えていた。

食事で“これがおいしいんだ”を知ることでお米や食べ物の素材に対する関心が変わるはずだと、私は思った。

「少しでも家庭のお米をおいしいと感じてほしい」
橋本さんの想いは、2017年より新たに”食育”への取り組みとしてスタートを切った。

お米を五感で感じる”米育”プロジェクト

こうした米離れに歯止めをかけるため、橋本さんは20217年より5~12歳の子供達を対象としたお米を五感で感じて、楽しみながら繊細な味覚を育む体験型の食育プロジェクト「my taste」を開始した。

「my taste」では五感を使って、お米に関するあらゆる情報を知覚する。

子供たちは、お米の香りや口に入れた感覚を頼りに銘柄を考え、感じたことを言葉で表現する。
子供たちが自主的にお米と触れ合っていくことを軸に考えたコンテンツとなっている。

1973年に世界で初めて味覚を目覚めさせる授業を実施した味覚の第一人者である”フランス味覚研究所”創設者のジャック・ピュイゼ教授は「人間の感性は8歳から”気づき”がはじまり、12歳で脳が大人になる。だから脳が完成する12歳までに、正しい味覚を教える必要がある」と提唱している。

味覚とは多数の感覚が混ざり合ったもの。
人は、食べ物の匂いをかぎ、舌で触れ、噛む音など様々な感覚を総合して味を判断する。

感じた味わいを言葉で表現することで語彙力や自己表現力、他の人と交流することでどうして同じ食べ物なのに他の人と感じ方が違うのかなどの他者理解も育める。
お米を使うことでお米に対する興味関心も高められる。

美味しいお米というのは人それぞれ。それは人それぞれに好みの味があるから。自分の美味しいを見つけてほしいと橋本さんは考える。

家庭のお米の美味しさも炊き方のちょっとした工夫で格段に美味しくなる。
美味しいお米をたくさんのご家庭に伝えていき、家族の食事の時間に笑顔を増やしたい。

今回、八代目儀兵衛直伝のご家庭でも美味しいお米が食べられるお米の炊き方をレクチャーしてもらった。

■自宅で試せる「おいしいお米の炊き方」

通常の炊飯器メーカー曰く、通常の炊飯は浸水時間が含まれている。
おいしく炊き上げるポイントは「浸水+早炊き!」

①計量
お米はキッチンスケールを使って正しく計測します。
1合あたりの重さは150gです。
②洗米
ポイントは、さっとかき混ぜてすぐに水を捨てること。
お米は最初に触れる水をもっとも吸収します。汚れた水を吸い込む前に、手早く行いましょう。
③米研ぎ
お米を優しく握っては離す、を2合以下は40回、3合は50回繰り返します。
その後、水を注ぎ、軽くかき混ぜて捨てます。このすすぎを3回行い、ザルで水を切ります。
④浸水
研いだお米と水をタッパーに入れてふたをし、冷蔵庫で60分浸水させます。
水の量は、お米1合あたりで190g。お米にしっかりと水を含ませることで、ふっくらツヤツヤの炊きあがりに。
⑤早炊き
ひと粒を指の腹で押すとぼろぼろと割れる状態が、浸水できたサイン。
浸水したお米は、炊飯器の「早炊きモード」での炊飯がおすすめ。
➅ほぐし
炊き上がったら、すぐにふたをあけます。しゃもじでお米の粒をつぶさないよう、空気を含ませながら、底からひっくり返すようにかき混ぜます。余分な水分を飛ばすことで、食感のよいごはんになります。

ちょっとした工夫で、味が変わるので是非試していただきたい。
また、YouTubeでは総料理長の橋本さんが簡単に実践できるお米の研ぎ方~浸水方法、炊き上がりまでわかりやすく解説している。

■おわりに

-橋本さんにとって”いいもの”とは?
「素材の良さだと思います。」

最後橋本さんに質問をさせてもらった”いいもの”について。
個人個人でいいものの定義は異なるものの、
橋本さんの言葉は今回お伺いした内容全てに通ずる言葉だ。

お米はすぐに食べられるものではない。ちょっと手間がかかる。
そのせいで面倒だとお米離れが進む。

この記事を見て少しでも”素材””お米”の美味しさに気が付く人が増えてほしいと思う。

そして、
お米が大好きな私にとって、大変特別な時間になり、より一層お米が大好きになった。